石久和氏: 皆さん、こんにちは。『オンライン国土学ワールド』へようこそ。
新保友映氏: こんにちは。
大石久和氏: 新藤さん、今日お話ししたいのは、この国の政治の話題の中心の一つと言ってもいい「国債」についてです。
新保友映氏: はい、国債ですね。
大石久和氏: ええ。「国の債務」と書いて国債。この国債に対する認識が、多くの政治家で間違っているのではないか、あるいは、正しい認識に至ろうという努力をしていないのではないか。そんな気がしてならないのです。石破さんも、自民党の森山さんも、口を開けば「赤字国債の発行は良くない」と繰り返しています。
しかし新藤さん、財政関係の法令に「赤字国債」という言葉はないのですよ。
新保友映氏: ええ。
大石久和氏: 国債は2種類あります。一つは財政法が認めている「建設国債」。これは、将来の世代も使うことになる道路、港湾、空港、河川などを整備するために発行されるものです。建設費を現在の国民が納めた税金だけで賄うのではなく、国が債券を発行して調達した資金も充ててよい、というのが法律上の建付けです。
一方で法律が厳しく禁止しているのは、建設国債ではない国債、いわゆる「特例公債」を安易に発行することです。これは戦前の反省に基づいています。戦前は、そうした国債を際限なく発行し、実質的な戦費に充てることができてしまった。その結果、莫大な国債が発行された歴史があります。このようなことを許せば、この国は再び軍備拡充に走り、戦争を始めてしまうかもしれない。これはGHQ、つまりアメリカの恐れでもあり、その意向で会計法が改正された経緯があります。
ですから会計法上、建設国債以外の「特例公債」は、その名の通り「特例」の法律がなければ発行できません。
新保友映氏: なるほど。
大石久和氏: それなのに、今どうなっているか。本来なら会計法そのものを現状に合わせて改正すればいいものを、それはせず、「会計法にはこう書いてあるが、例外的に特例公債を発行することができる」という法律を、毎年毎年通し続けているのです。面白い国でしょう。
新保友映氏: 不思議な仕組みですね。
大石久和氏: 以前は毎年法案を出していましたが、あまりに煩雑だということで、一度の法律で何年間かは特例公債を発行できるよう規定を改めています。しかし、数年経てば期限が来るので、また法案を出さなければならない。非常に特別な扱いを続けているわけです。
この「特例公債」を、石破さんや森山さんは「赤字国債」と呼ぶ。なぜなら、国民、特にご家庭の主婦の方々が聞くと、「赤字」という言葉から「家計の赤字」を連想するからです。そうなると、「夫の給料が低いからもっと働いてもらおう」とか、「私が贅沢をしすぎたのかもしれない」といった反省につながる。そういう連想ゲームを狙って、意図的に「赤字国債」という言葉を使っているのです。
新保友映氏: うーん。
大石久和氏: 最近、非常に重要な出来事がありました。岸田さんが総理大臣だった頃、衆議院か参議院か忘れましたが、本会議である野党議員から「国債は国の借金なのですか」と、真正面から質問されたのです。
新保友映氏: はい。
大石久和氏: すると岸田総理は、なんと「国債は国の借金ではありません」と明確に答弁したんですよ。
新保友映氏: へえ。
大石久和氏: ところが、これを報じたメディアが一つもない。なぜか。メディアが普段から主張している「国債は国の借金であり、将来世代へのツケである」というストーリーと違うからです。岸田さんは正しいことを言ったのに。
国債は「政府の債務」ではありますが、同時に「国民の債権」です。これはお金の流れを見ても証明されています。コロナ禍で政府は大量に国債を発行しました。その結果どうなったか。民間企業の内部留保、つまり設備投資や従業員への給与、株主への配当を支払った後に残るお金が、2022年には554兆円に達しました。これは前年比7.4%増で、11年連続で過去最高です。もし国債発行が民間からお金を奪うものなら、こんなことは起こりえません。
新保友映氏: 確かに。
大石久和氏: そしてその1年後には、内部留保はなんと600兆円を超えました。個人の金融資産も、2024年3月時点で2200兆円に達しています。どこにそんなお金があるのかと思いますが。
新保友映氏: すごい金額ですね。
大石久和氏: つまり、富裕層にはこれだけの資金が積み上がり、増え続けている。その一方で、貧困層も増え続け、生活保護世帯数は毎年過去最高を更新している。国民の間で、凄まじい経済格差が広がっているのです。私は、格差が広がり続ける国が良い国だとは到底思えません。
こんな状況にもかかわらず、ある新聞が面白いことを言っています。「我々メディアは、国民のリテラシー教育のために出前授業をやる」と。その理由として、「新聞やテレビは裏付けの取れたニュースを発信しているが、SNSでは不正確な情報も拡散されるから」だそうです。新藤さん、これについて、率直な感想はいかがですか。
新保友映氏: そうですね…元々マスコミの端にいた者としては、少し反省すべき発言ではないかな、と。「それはちょっと違うのでは」と言いたくなるのが正直な感想です。
大石久和氏: ですよね。私がいくらここで主張しても、ただの個人の意見だと思われるかもしれませんが、事実は違います。メディアは「国債は国の借金だ」「返済できなくなったら大変なことになる」と繰り返し言いますが、当の財務省がホームページで「日本やアメリカのような先進国の自国通貨建て国債がデフォルト(債務不履行)するわけがない」と明確に言い切っているのです。海外の格付け会社に「デフォルトとは一体どういう事態を想定しているのか」と、逆に問い質したくらいです。
新保友映氏): へえ。
大石久和氏: つまり、デフォルトという状態は想定できない、ということです。ついでに言うと、石破さんが最近「日本の財政はギリシャよりひどい」と言いましたね。
新保友映氏: はい、言いました。
大石久和氏: 日本とギリシャでは決定的に違います。ギリシャはユーロを導入したため、自国で通貨を発行する権限がありません。通貨を管理しているのはドイツにある欧州中央銀行です。ギリシャの都合で通貨の供給量を調整することはできない。この違いは、とてつもなく大きい。こんな基本さえ、総理だった方はお分かりでなかったのかと思うと残念です。
私にはこの状況に既視感(デジャヴ)があります。同じようなことを、大昔に菅直人さんが言っていました。菅さんは総理時代、福島の原発事故の際に自ら現地に乗り込み、「俺は大学時代に物理を学んだから原子力に詳しいんだ」と、何十年も前の知識で現場に介入しようとして、失態を演じました。ギリシャの話もこれと同じで、どちらも誰かに言わされているのではないかと勘繰ってしまいます。でなければ、こんな初歩的な間違いをするはずがない。
新保友映氏: ああ、なるほど。
大石久和氏: おまけに、G7の国々で、満期が来た国債を現金で償還しているのは日本だけです。他のG6の国々は、償還期限が来ると、同額の国債を新たに発行して借り換えている。だから、そもそも「償還」という問題が起きようがないのです。
こうした間違った認識が、子どもへの教育支援や、高等教育・研究開発への国の支援が乏しい現状につながっている。中国と比べるのも恥ずかしいくらい、世界から取り残されています。
総理大臣になろうという人は、まず正しい財政認識、正しい経済認識を持つべきです。そして、そのための努力を、今の政治家はあまりにも怠っているように思います。不正確で間違った認識のもとで発言し、行動している。この国の一番の不幸は、最も重要な経済・財政認識が間違っていることです。そしてそれは、主権者である我々国民自身が問われている問題なのかもしれません。
今ご説明した簡単な話だけでも、オールドメディアが報じることと国債の仕組みの実態がどれほど異なっているか、そして、かつて岸田総理が国会で答弁したことの方がいかに正しかったか、ご理解いただけるのではないでしょうか。
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